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2012年3月12日 (月)

悪の遺産ヴェネツィア(1)

過日、天童竺丸氏が著した『悪の遺産ヴェネツィア』について簡単な書評を試みたが、いきなりヴェネツィアだの黒い貴族だのと書いても、何のことか分かって戴けなかったと思うので、以降数回にわたって解説を試みたい。

最初に筆者の場合、ロスチャイルドやロックフェラーなどの宮廷ユダヤを操る、得体の知れない“黒い貴族”(世界権力またはワンワールド)が存在していることは既に知っていたが、“肝心な黒い貴族”の正体がよく分かっていない状態であった。ところが、『悪の遺産ヴェネツィア』に目を通すことによって、長年の疑問が一気に氷解したのである。

B120312 9年前、筆者の頭の中にあった世界権力像は、米国と英国というアングロ・サクソン、およびロスチャイルドやロックフェラーといった宮廷ユダヤの連合体であった。当時、「国際政治のすすめ」と題した記事を、某国際契約コンサルティング会社のウェブに掲載して戴いたことがある。その時に最も参考になったのが、『国際寡占体制と世界経済』(岩城淳子著 御茶の水書房)であった。同書の場合、ヴェネツィアについて言及していないものの、少なくとも“狭義”の世界権力を理解するには優れた書籍であったと今でも思う。当時の記事を以下に転載しておくが、何分にも大分長い記事のため、宮廷ユダヤについてある程度理解している方は読み飛ばして戴いて結構である。それにしても、今日に至って読み返してみるに、世界権力についての考察が未熟な記事であり、赤面の至りだ。

ところで、以下の記事に登場する物部氏の定義「アングロ・ユダヤ金融戦略」だが、物部氏は「米国は、英国、ユダヤ資本と組み、3者で、国際経済を牛耳る密約をした(これを「アングロ・ユダヤ金融戦略」という)と考えられる」と書いている。しかし、正しくは「ヴェネツィアに乗っ取られた英国、その英国の支配下にある米国、およびヴェネツィアに仕えている宮廷ユダヤ」なのだが、このあたりの解説は次回以降に回したい。

国際政治のすすめ(政治編)

物部一二三氏の筆による「日本人と日本国の現状と将来 -ミレニアム提言-」というシリーズが、『海援隊』に二年間にわたって連載されていた時期がある。筆者も物部氏のシリーズを毎月楽しみにしていた一人であるが、その中で「アングロ・ユダヤ金融戦略」なる言葉がしばしば登場していたのを読者は覚えておられるだろうか。今思うに、「アングロ・ユダヤ金融戦略」という言葉には実に不気味な響きがあった。そこで、本稿では「アングロ・ユダヤ金融戦略」にメスを入れ、「世界の政治・経済のエスタブリッシュメント(支配層)」のグランドストラテジー(大戦略)が、世界の政治・経済にどのような影響をもたらしているのかについて検証してみたいと思う。

最初に、物部氏の定義する「アングロ・ユダヤ金融戦略」については、以下に目を通していただきたい。

 
 

1980年頃、米国は、英国、ユダヤ資本と組み、3者で、国際経済を牛耳る密約をした(これを「アングロ・ユダヤ金融戦略」という)と考えられる。そこでは、「金融のビッグバン」と言う標語の下に、金融のアングロサクソン・スタンダード=グローバル・スタンダードを創り上げた。この戦略では、米英を益することを条件に、ユダヤ資本に国際金融のコントロール権を与えた。この結果は、地球上に、実体経済社会とは別に、金融経済社会を創り上げることになった。正に、新しい時代の資本主義(個々の資本主義からグローバル資本主義)制度の誕生が謀られたのである。米国と英国にとっては、自国通貨の過不足分を調整するユダヤ資本の才能は望むところであるし、ユダヤ資本に取っては、世界の実体経済を金融経済で完全にコントロールできる利権を取得することになったので、両者は完全に利害を一致させることができたわけである。

物部一二三著 「日本人と日本国の現状と将来 -ミレニアム提言-」

 

 1980年頃の米国と言えば、1981年にレーガン政権が発足し、1985年にプラザ合意が成立するといった一連の流れから想像できるように、「アングロ・ユダヤ金融戦略」すなわち米国主導の世界経済支配が確立した時期であった。そして、その米国の世界経済支配の一角を担ったのがシティ銀行、チェース・マンハッタン銀行といった多国籍銀行だったのである。また、その時期は金融分野をはじめとする多国籍企業同士の熾烈な競争が展開されたのであり、競争に打ち勝って生き延びていくために力のある多国籍企業同士が提携・合併を繰り返していった。無論、その陰で競争に敗れた力のない多国籍企業の屍の山が築かれたのは言うまでもない。そのあたりについての詳細は、広瀬隆氏が著した『アメリカの経済支配者たち』および『アメリカの巨大軍需産業』をはじめ、その他の国際政治・経済コメンテーターの書籍を参照されたい。なお、広瀬氏の場合は実際にロスチャイルド一族といったエスタブリッシュメントとの交流があったわけではないため、アメリカおよびヨーロッパのエスタブリッシュメントの本質を広瀬氏が捉えていないという情報を、実際にロスチャイルド一族などと交流を持つ某識者から直接筆者は聞いている。よって、広瀬氏の著書は割り引いて読む必要があり、アメリカの支配層を鳥瞰図的に捉えるための参考資料程度に利用すればよいと思う。

一方、1980年代から1990年代にかけての米国は、「雇用なき繁栄」という大量失業と不安定就業が恒常化して中流階級が没落していった時期であり、一握りの富裕層と圧倒的多数の困窮層という極端な二極化が進行した時期であった。不幸にして、現在の日本も二極化が進行しているのはご存じのとおりである。このように、低開発国の民衆や先進国の低所得層の民衆の犠牲の上に成り立っているのが、「世界の政治・経済のエスタブリッシュメント」が主導する「アングロ・ユダヤ金融戦略」の実体であることを忘れるべきではない。

次に、「世界の政治・経済のエスタブリッシュメント」のグランドストラテジー(大戦略)が世界の政治・経済にどのような影響をもたらしているのかについて筆を進めてみよう。

物部氏の指摘にある米国経済、さらには世界経済をコントロールしているというアングロ・ユダヤ連合による金融ヘゲモニーをはじめ、軍事・情報など他分野のヘゲモニーも視野に入れて考察するにあたり、最良の指南書の一冊が『国際寡占体制と世界経済』(岩城淳子著 御茶の水書房)である。

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(1) 国際的金融ヘゲモニー

(2) 国際的情報ヘゲモニー

(3) 国際競争力としての生産性優位の確保

(4) 世界の科学・技術分野におけるリーダーシップの掌握

(5) 原料・エネルギー資源の囲い込み

(6) 国際関係の戦略的構成

(7) 地球ないし宇宙規模の軍事ヘゲモニー

出典:『国際寡占体制と世界経済』(岩城淳子著 御茶の水書房 P248 

戦後の米国の歩みを振り返ってみると、第二次世界大戦後から1970年代初頭までは戦禍を免れた唯一の参戦国であった米国が圧倒的な力を固持していたことに気づく。しかし、ベトナム戦争などにより米国が国力を消耗している間、戦禍に見舞われたヨーロッパおよびアジアの諸国が復興を遂げ、ついに米国を1971年8月のニクソン・ショック(金ドル交換停止)が襲い、戦後の国際経済秩序の根幹をなしていたIMF・GATT体制、所謂ブレトンウッズ協定に終止符が打たれたのであった。このように書くと、パクス・アメリカーナが終焉を迎えたかのような印象を読者に与えかねないが、実際はニクソン・ショック以降のパクス・アメリカーナの基盤は一層強固なものとなったのである。そうした米国主導による世界体制が確立された時期が1980年代であったと言えよう。

ここで、『国際寡占体制と世界経済』を下敷きに、岩城教授の図にある(1)(7)を筆者なりに解釈すると以下のようになる。

(1) 国際的金融ヘゲモニー

国際的金融ヘゲモニーとは、本稿で取り上げている世界経済の支配層そのものを指し、それが岩城教授の描いたヘゲモニー構造図の頂点に置かれているのも、国際的金融ヘゲモニーこそが中核的なヘゲモニーだと岩城教授が捉えていたからである。ニクソン・ショック以降、今日に至っても相変わらず不換紙幣ドルが世界の基軸通貨として流通し、巨大銀行がニューヨークに集中している事実そのものが、米国主導の国際的金融ヘゲモニーの重要性を示す何よりの証となる。尤も、国際金融市場におけるドルの垂れ流しという米国のしたい放題に歯止めをかける意味で、ヨーロッパ諸国が2002年1月にEUの統一通貨であるユーローを登場させたことの意義は大きく、今後の米国主導による経済支配層に少なからぬ影響を与えると見て間違いない。

(2) 国際的情報ヘゲモニー

国際情報通信分野における米国の情報ヘゲモニーは、上記の(1)国際的金融ヘゲモニーと密接な関連性を持つ。何故なら、投機的金融市場では一瞬の差、一瞬の情報格差が勝敗の決め手となるためからである。1815年6月19日に大英帝国とフランス両国の命運を賭けたワーテルローの戦いの結果を誰よりも早く入手したネイサン・ロスチャイルドが、ロンドンの株式取引所で巧妙な手口を使って濡れ手に粟の莫大な大金を手にしたという逸話を思い出せば、情報の大切さは一目瞭然となる。尤も、ネイサン・ロスチャイルドの入手した情報は“素材”に過ぎず、来る情報化社会においては素材である情報を分析・統合した上で判断を下すという “インテリジェンス”の方が重要視されることは間違いない。

(3) 国際競争力としての生産性優位の確保

「アメリカが金融ヘゲモニーとして優位に立つためには、米国系の多国籍企業が他国系の多国籍企業に対して競争上優位な地位を確保していることが必要であり、そのためには設備の近代化・人減らし合理化による労働生産性の向上すなわちコスト・ダウンで優位に立たねばならない」と『国際寡占体制と世界経済』の著者である故岩城淳子教授は説いており、筆者も同意見である。なお、生産性について考察するのであれば、併せて情報ヘゲモニーの一環であるCALS(生産・調達・運用支援統合情報システム)の脅威を知っておく必要がある。すなわち、米国においては、政府、官庁、軍隊、民間、果てはアカデミーすらもCALSによって統括されているという現実である。日本では光ファイバー網云々と騒いでいるが、これではあまりにもハード志向に偏り過ぎていると言えないだろうか。もっとソフトウェアなどのインタンジブルなものにも目を向けていくようにしないことには、今世紀に本格化する地球規模の情報化において日本は立ち後れていくばかりだ。

(4) 世界の科学・技術分野におけるリーダーシップの掌握

日欧米系の多国籍企業では、利潤を獲得していくために常に新製品開発に力を注いでいるが、そのためには科学・技術両分野において他をリードしていくことが不可欠となる。そのためには基礎科学も含め、将来を見通した科学・技術分野の戦略を立てることが必要であろう。しかし、ロケットで有名な故糸川英夫博士がいみじくも「日本にはサイエンスがない」と語っておられたように、基礎研究・科学を軽視している日本には残念ながら科学の名に値するものは皆無に近い。日本人の科学軽視の傾向はセマンティックス音痴に由来するものであり、日本の将来を思うにかえすがえすも残念なことである。

(5) 原料・エネルギー資源の囲い込み

産出・生産地域の偏った石油、レアメタル、食糧などに関して、米国は二国間協定等により資源の囲い込みを進めてきたが、これは高度な戦略の部類に属す。最近の例を挙げるならば、9・11事件を引き金として発生した米国によるアフガン侵略も、一種の原料・エネルギー資源囲い込み戦略である。さらに、一つ上の次元から眺めれば前世紀は石油を中心に世界は動いてきたことが一目瞭然であり、これは21世紀に入った今日においても変わるところがない。尤も、情報大革命の前夜に相当する現在、エネルギーの中心が石油から情報にシフトしつつある現実にしっかりと目を向けることが大切だ。

(6) 国際関係の戦略的構成

「米国を頂点として、その下位に米国と特別の関係にある諸国(日・英・独・サウジアラビア・イスラエルなど)を結集し、更にまた、その下位に戦略上重要な諸国を…という具合に、戦略的重要性にもとづいて重層的に編成された国家関係をさす。この戦略的重要性は、ヘゲモニー構造の維持と資本主義体制の維持の観点から見たもので、当然、ヘゲモニーの各要素とも深く関連している。(中略)戦略的な国家関係の確立にあたっては、その奥深い背後にある人的コネクションが重要な役割を果たしているが、それを可能にしたのは、政・官・財界その他諜報分野にいたるまでの内外の各種人材、特に外国の人材を長期間にわたって大量に育成し、全世界に戦略的に配置してきたことである。こうした人材育成のスポンサーとしては、米国政府だけではなく、ロックフェラー財団、フォード財団などの諸団体やフルブライト基金のようなさまざまな奨学基金があげられよう」と『国際寡占体制と世界経済』の著者である故岩城淳子教授は説いている。筆者も基本的に岩城教授の意見に同意するものの、岩城教授と意見を異にする部分もある。第一に、英国やドイツと同一レベルに日本を岩城教授は取り上げているが、米国は戦略的に英国やドイツの下位に日本を位置づけていると筆者は思う。第二に、人的コネクションについて言及するのであれば、フリーメーソンについても言及しないことには片手落ちという点も指摘しておきたい。

(7) 地球ないし宇宙規模の軍事ヘゲモニー

「圧倒的に優勢な核兵器体系や人工衛星システムを軸とする宇宙覇権を背景に、各種軍事協定によって戦略的に重要な地域をコントロール下に置きながら(6)、各々の地域の特殊性に応じた、科学・技術の先端部分、原料・エネルギー資源などの囲い込み(45)や、地球を覆う情報・通信網の構築(2)などを実現させてグローバルな管理体制に万全を期するという構図である。また、ケインズ的有効需要政策においても、科学・技術戦略においても、軍産複合体が果たす役割はきわめて大きい。こうした全体的関連の中で体制保証の支柱をなしているという意味で、(7)がヘゲモニー構造全体を支える基盤の位置を占めているといえよう」と『国際寡占体制と世界経済』の著者である故岩城淳子教授は説いている。岩城教授の主張のとおり、軍事力はパクス・アメリカーナを維持し、(2)(6)を貫いていくためにも不可欠なものであろう。ようするに、(1)の金融ヘゲモニーと(7)の軍事ヘゲモニーは、岩城教授の言う諸ヘゲモニーを推進していく両輪に相当すると言えよう。

以上、パクス・アメリカーナをさまざまな角度から検証してきたが、ここでふと筆者の脳裏にパクス・ブリタニカが浮かんだ。ご存じのとおり、かつてはパクス・ブリタニカの覇者たる英国は、ボーア戦争、第一次大戦、第二次大戦と半世紀にわたって続いた三つの戦争で国力を消耗・衰退させ、ついにはパクス・アメリカーナに覇権が移行したというのが『国際寡占体制と世界経済』の岩城教授をはじめとする世間の一般的な見方である。しかし、果たしてそうであろうか。寧ろ米国は未だに真の独立国とは言えず、深奥は相変わらず英国の「植民地」のままではないのだろうか。英国本土だけに目を向ければ確かに王室と労働者しか残っていないが、真に優秀な英国人は世界中に散らばっていて世界のソフトウェアといったインタンジブルな分野に深く関与している事実を見過ごしてはいないだろうか。

2003年11月吉日

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