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2011年5月 1日 (日)

『天皇財閥』

B1110501 同書は、SNSI(副島国家戦略研究所)研究員である、吉田祐二氏の書いた本である。筆者は同書の「はじめに」と「おわりに」を読み、次に冒頭から読み始めたが、五分の一ページほど読み進めた時点で、後に述べる理由により、最終章である第五章をパラパラと捲った以外、同書に目を通すのは止めた。

最初に、同書から受けた印象として、市販本やインターネットで入手可能な情報の範囲で、よく調べて上手に整理しているという印象を受けた。流石に、「私は知識人だ」と豪語する、副島隆彦氏の弟子だけのことはある。また、同書の「おわりに」にある以下の記述も素晴らしい。

もうひとつは、「生物学者」昭和天皇の側面である。昭和天皇が昭和50年に訪米した際に、ニューヨーク植物園で「御進講」をしたのが、筆者の学生時代の恩師のひとりである植物学者、小山鐵夫教授(現牧野植物園園長)であった。生物学を専攻した者として、昭和天皇は身近な存在なのである。(『天皇財閥』p.260)

実は、昭和天皇のみならず、今上天皇も研究者としての一面があるのは、『古事記』(ふることふみ)にある。古事記に関しては、拙ブログでも主要テーマの一つとして取り上げているので、そちらを参照して戴きたい。ともあれ、生物学と古事記とが、どのように結びつくのか疑問に思うかもしれないが、いずれ本ブログの古事記シリーズの中で明らかにしていきたいと思う。

さて、同書を五分の一ほど読み進めただけで、それ以上読むのを止めたのは、吉田氏が皇室という名の氷山の一角、すなわち海面に浮かんだ10%のみの氷山の、しかも表側だけを見て、そのまま編集整理して書いているに過ぎないからだ。実は、海面に浮かぶ氷山の反対側も見なければ、少なくとも入手可能な範囲の情報で、海面に浮かぶ皇室という氷山を見たことにはならない。氷山の反対側を伝えてくれる貴重な資料としては、落合莞爾氏の『月刊日本』に連載中の「疑史」と題する連載があり、現在は「堀川辰吉郎と閑院宮皇統」と題したシリーズが続いているが、この落合氏の資料に目を通さない限りは、いくら天皇論を書いたところで的外れに終り、せっかくの努力が無駄になってしまうのだ。たとえば、最新の『月刊日本』5月号に以下のような記載がある。

 

事実上ないし実質上の「裏」が存在する限り、真相が露呈する時節はやがて来る。卑小な例だが、各県庁・警察が秘かに営々と蓄え、私的に消費してきた「裏金」の存在がとうとう暴露された。公的制度上「ある筈のないもの」が、実は存在した例はこの他にもある。政府によれば元来有るべき道理のない「在日米軍の核兵器持ち込み」が厳然と存在した「裏」の事実が、結局国民に明らかにされたではないか。

 やんごとなき筋にも、むろん「裏」がある。それが「裏皇室」すなわち堀川御所に隠れた孝明系の京都皇統である。明治維新を睨んだ「堀川政略」が、わが国古来の不文法による國髄天皇から、近代的国家元首としての「政体天皇」を機能分離させたとき、大室系明治皇室と光格系京都皇統が対発生した。前者は東遷して政体のカシラたる「表」の大日本天皇となり、後者は聖地京都に残り、國鵬天皇のシャーマン機能を保存して「裏」天皇となった。明治二十二年二月十一日発布の明治憲法により、大日本天皇は血統的に「万世一系」と規定されたが、その法律的意義は「明治天皇を以て初代とする」もので、太古以来の皇統の血統的連続を指すものではないとする滝川幸辰の説が、単なる法律解釈ではなく、歴史的事実が秘めたものとの見方もあろう。

 京都皇統は、国家シャーマンの地位に立ちながら、「裏」天皇としてこれまでの日本が無縁であったワンワールド勢力との折衝を担うこととなった。具体的には国際金融・皇室外交と国際結婚である。ワンワールド勢力を、日本人が「ユダヤ」ないし「フリーメーソン結社」と呼ぶのは、本質を見誤った皮相的認識であるが、相手に正式名がないことも一因であろう。この勢力が国際政治を牛耳る「裏」の存在であることは、正式名がないこと自体がその証明になる。(『月刊日本』p.102)

要するに、今上陛下を頂点とする現在の東京皇室だけしか、吉田氏の視野には入っておらず、肝心の裏天皇、すなわち堀川辰吉郎とその流れが、全く吉田氏の視野に入っていない。だから、吉田氏は海面上に浮かぶ氷山の、それも表側しか見ていないと、筆者は断じたのだ。

尤も、初めて落合氏の記事を目にする読者は、今まで考えもしなかった裏天皇のことが書いてあるため、俄には真偽のほどの判断に迷うだろう。そこで落合莞爾氏の裏天皇説の信憑性であるが、実は落合氏の情報源は皇室インナーサークルなのだ。このあたりは昨年の八月に落合莞爾氏の狸庵を訪問し、数泊させて頂いたときのレポートを纏め、「近代日本史の舞台裏」と題して拙ブログにアップした。幸いなことに、筆者も皇室インナーサークルとの接触があるので、自信を持って落合莞爾氏の説を支持できるのだ。
近代日本史の舞台裏

なお、落合氏と皇室インナーサークルについて図化したpdfファイルも作成したので、参照して欲しい。
http://pro.cocolog-tcom.com/edu/files/ochiai01.pdf

ここで、皇室インナーサークルの存在だが、彼らは皇室と日常的に接している存在であり、そうした皇室インナーサークルの一人、栗原茂氏が私家版『真贋大江山系霊媒衆』で、以下のように記述しているが、そこからも皇室インナーサークル像が朧気ながらも浮かぶだろう。

かつて筆者は高松宮宣仁(のぶひと)親王殿下に問うを許された。それは青年将校蹶起の五・一五事件に加わる在野の志(ここざし)に関する問いであったが、高松宮は「当時、海軍一部に第二の同様事件を醸(かも)す空気は消えておらず、その目的の禊祓は重大ゆえ…」と思(おぼ)し召(め)され「通常ロンドン条約に係(かか)る問題を第一段といい、社会改造は第二段という考え方が伝わり広まるが、第一段は軍内首脳に向けての不平不信を何とかして一糸(いっし)も乱れぬよう整備する目標を抱えており、第二段は政党の腐敗(ふはい)、財閥(ざいばつ)の横暴(おうぼう)、農村の疲弊(ひへい)、道徳の堕落(だらく)、為政(いせい)の態度、等々の社会問題であり、条約問題は副(ふく)とも思えるが、大部分の純心を汲み取る公が法に適(かな)わぬは、我が身の不徳かな…」と諭(さと)された。
 この事件は将兵が軍司法機構で裁判を受けるが、民間人は一般法廷で裁(さば)かれ、刑の軽重に大きな違いを生じた。筆者は高松宮の思し召しを賜る(たまわ)までは、独り国賊(こくぞく)たらんも可なりと己れの死処を模索していたのだ。(『真贋大江山系霊媒衆』p.175)

http://pro.cocolog-tcom.com/edu/2010/03/post-4f89.html

無論、落合莞爾氏や筆者が知る皇室関係の情報は、海面上に浮かぶ氷山の表と裏だけではなく、一般には知り得ない、海面下に沈む残り90%の情報についても、全てではないものの、そのほんの一部を筆者は直接耳にしているが、ブログという公の場での公開は控えさせていただく。

ともあれ、吉田氏は氷山の裏側の調査を怠ったばかりに、以下のような間違った結論に至ったのは、誠に残念である。

昭和天皇は、天皇財閥の最後の総師であった。(p.255)
天皇の権威は、いまや官僚たちの手中にある。(p.263)

何故、上記の記述が間違っているかが分かるには、ツランという存在を知り、さらにツランの頂点に立つのが日本の天皇であることを知れば、たちどころに分かる。尤も、ツランと云っても吉田氏には何のことか分からないと思うので、拙ブログのツラン関連の記事を以下に紹介しておくので参照されたい。
ツランという絆

さて、ここで吉田氏の親分である副島氏、そして吉田氏と同僚の中田安彦氏の皇室観も見ておこう。

東日本大震災が発生して間もなく、副島は自身の掲示板に以下のように書いている。

どうやら、天皇陛下は、京都にお移りになったようである。だから、計画停電というアナアウンスをして、都心を静かにして 移動したようだ。東海道新幹線だけが、今日(15日)も平常のように動いている。外国人と、金持ち(資産家)たちを先に、西に逃がすためだ。一般大衆と、企業の会社員たちは、仕事という義務があるから逃げられない。生徒、学生たちは、すでに学校は休校になっている。
[230]若い人たちは、西に逃げてください

なお、上記の記事は掲示板【阿修羅】にもコピーされているので、万一削除された場合は同掲示板をアクセスして欲しい。
副島隆彦ブログ「学問道場」自衛隊員の決死隊…

上記の副島氏の発言は、副島氏が皇室インナーサークルとの接触が全くないことを示しており、あれば「京都にお移りになった」などと馬鹿なことを書くはずがない。それ以前に、原日本人、副島氏が言うところの“土人”と皇室との目に見えぬ繋がりすら、同氏には見えておらず、本当に今上陛下が“京都にお移りになった”場合、筆者を含め、あとに残された東北や関東の“土人”が、パニックに陥るであろうといった程度のことすら、副島氏は思い浮かばなかったようだ。こうした人間には、たとえば以下のような御製の心など、到底理解できるはずがない。

高き屋にのぼりて見れば煙(けぶり)立つ民のかまどはにぎはひにけり(新古今集巻七賀歌 仁徳天皇御製)

次に、弟子のアルルのヒロシこと中田安彦氏は、自身のTwitter に以下のように書いている。

正直、今の天皇陛下は好きだが、私は昭和天皇はあまり好きじゃないんだよね。
アルルの男・ヒロシ

意外と正直だ。今後も副島氏の弟子として頑張って欲しい。

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コメント

尾崎さん、投稿有り難うございました。

本来、落合さんの記事は海面下の氷山に属す内容の情報でしたが、1年前に何故に某皇室インナーサークルが、落合氏にゴーサインを出したのか腑に落ちませんでしたが、311事件を体験して漸く全体像が朧気ながら見えてきました。

それは兎も角、「3つ以上のルートから確認を取る」という方法、まさに藤原博士の方法に倣っていますね。また、お会いすることがあったら、無尽蔵に近い氷山の海面下の情報交換を行いましょう。

サムライ拝

投稿: サムライ | 2011年5月 6日 (金) 午前 08時19分

生の情報、即ち真に迫った情報は決して本という形の静的な形としてまとめるとことには無理があると思います。
小生ある事情からここ最近もそのような実情に幾つか接し、3つ以上のルートから同じ話を伺って、その意味するところを深く認識する至りましたので、端的には分かる人にしか決して分からない世界があることが確かに存在することを理解できております。

投稿: 尾崎清之輔 | 2011年5月 6日 (金) 午前 01時26分

本にはならないと思います。

実は、数名の同志と過去の落合氏の記事をコピーして10冊程度に製本化、仲間内で分けたことがあります。それを落合さんに知らせたところ、俺も欲しいということで、2冊ほど贈ったことがあります。

ともあれ、内容が内容だけに、何処の出版社も二の足を踏むし、仮に製本化しても、余りにも世の中の“常識”から外れているため、売れないでしょうね。

落合氏の記事は、分かる人が読めば良いと思います。

投稿: サムライ | 2011年5月 5日 (木) 午前 05時06分

思うに落合さんあれだけの原稿書きっぱなしで本にしないんでししょうか???

投稿: ひろいえ | 2011年5月 3日 (火) 午後 04時39分

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