職人のすすめ
『NEW LEADER』という経済誌を読んでいたところ、「新卒採用も国際競争時代 見捨てられる? 日本人学生」という題の記事が目に止まりました。本記事の最後に同記事を転載したので参照してもらうとして、同記事によれば「二〇一〇年四月の大学新卒者のうち、進学も就職もしなかった者が前年比二八・三%増の約八万七〇〇〇人」とのことです。たしかに周囲を見渡しても、従妹の娘で学芸員の資格を取得して大学を出たものの、雇ってくれる博物館はゼロだったとか、友人の娘さんで大学を卒業しても就職先が見つからず、現在は自宅で家事の手伝いをやっているといった具合で、拙宅の息子たちが就職先を探す数年先には、さらに厳しい状態になっていることを暗示しているかのような記事でした。
同記事は、昨今の日本の若者が“グローバル競争”に巻き込まれている事実を述べています。その場合、自らグローバル競争に参入し、世界中の若者たちと競い合う道も一つの選択肢でしょう。しかし、同記事にもあるように、「半数近い四九・○%が海外で働きたいと思わない」とアンケートに回答したとあります。なるほど、治安がよく、日本語が通じ、食べ物も美味しく、四季折々の母国に留まりたいのは本心だと思います。そうであれば公務員になるのも一つの手ですが、昨今にあっては公務員になるのも難関であり、現に公務員の実弟を見ても、将来的に必ずしもバラ色の道とは思えないのです。そこで、日本で仕事をしたい若者は、職人を目指すのも一つの道かもしれないと思った次第です。
職人とはどういう世界なのかを分かりやすく示してくれるものに、小学館の『ビッグオリジナル』誌に連載されている「あんどーなつ」というマンガがあり、直向きに和菓子の修行に打ち込む、安藤奈津という女の子を描いています。小生は翻訳業を生業とする職人ですが、同じ職人として若い奈津からだけでなく、奈津を囲む人たちからも色々と教わることが多いのです。
また、このマンガは職人としての心構えを説いているだけではなく、昨今には珍しい古き良き日本人を登場させているのも魅力的です。たとえば、以下のシーン…
これは奈津が初めて一人で創意工夫して拵えた、和菓子が完成した時のシーンです。周囲の協力があって初めて、自分の和菓子を完成できたことを感謝する奈津の姿に、昔の良き日本人を目のあたり見る思いでした。
古き良き日本人と言えば、以下のシーンも印象的です。これは奈津が働く和菓子屋の女将の兄が工芸和菓子を作っているのを見て、自分もやりたいと思った奈津ですが、どうしても親方の梅吉に面と向かって言えない…、そのあたりの奈津の奥ゆかしさを示すシーンです。このような若い日本人を殆ど目にすることが少なくなった今日この頃だけに、このシーンを見るたびに清々しい気分になります。
しかし、愚生が「あんどーなつ」というマンガが好きな本当の理由は、生きていれば再来年は成人式を迎えるはずだった我が娘を、奈津と重ね合わせて見ているからかもしれません。
新卒採用も国際競争時代 見捨てられる? 日本人学生
待ってもどうにもならない
再び氷河期が到来したといわれる新卒採用。文部科学省の「学校基本調査速報」によると、二〇一〇年四月の大学新卒者のうち、進学も就職もしなかった者が前年比二八・三%増の約八万七〇〇〇人に達し、新卒者全体に占める割合も同四・○ポイント増の一六・一%に上昇した。一方、就職率は同七・六ポイント減の六〇・八%に低下。実に四割近い大学新卒者が職を得られなかったことになる。この中には大学院などへの進学者もいるが、「院卒のほうが就職に有利なのは理系だけ。文系大学院進学者の多くは、学部卒で採用してもらえなかった就職浪人」(大学院修上課程在学者)という。
とはいえ「待てばなんとかなる」状態ではなさそうだ。都内私立大学の就職担当者は「以前の就職氷河期は業績悪化に伴う一時的な採用抑制だったが、今年は業績が回復しているにもかかわらず採用を絞っている企業が多い。これからは景気の動向に関係ない慢性的な就職氷河期になる」と危惧する。
ところが新卒採用に熱心な大手もある。対象は日本人ではなく、外国人留学生だ。「日本に留学した外国人留学生は日本語も堪能で、漢字の読み書きもできる。さらに母国語に加えて、英語も使いこなせる人材がほとんど。アジアからの留学生が多いので、成長市場であるアジアで活躍する即戦力として重視している」と、大手IT企業の人事担当者は打ち明ける。
こうした外国人留学生重視の背景には、企業のグローバル化と日本人学生の国内志向というミスマッチが影響している。「海外勤務がイヤだとか、短期間で帰国させろなどと上司に訴える若手社員が増えている」と、大手電機メーカ―の幹部は閉口する。高齢化と人口減で日本市場が縮小するのは避けられない。これから日本企業が生き残るにはグローバル化しかないが、若い日本人の意識が追いついていない。
一生離れたくない!
前出の私大就職担当者も「最近の学生からは『一生、東京を離れなくてよい会社はないか』とか、『故郷の優良企業には転勤がある。転勤のない会社は中小ばかり。なんとかならないか』といった相談が多い。経済はグローバル化しているが、新卒者は反対に土着化の傾向が強まっている」と指摘する。
産業能率大学が一〇年四月採用の一八~二六歳の新卒社員四〇〇人を対象に実施した「新入社員のグローバル意識調査」によると、半数近い四九・○%が「海外で働きたいと思わない」と回答したという。〇一年の調査に比べると海外志向の弱い(国内志向)層は二〇ポイント以上も増えている。一方で海外志向の強い(海外志向)層も増えているが、国内志向層の急増に打ち消されている状態だ。
ならば海外志向の強い新卒者を選んで採用すればよさそうなものだが、「最近の学生は採用試験テクニックが向上し、受験時は『どこの国へも行きます』とアピールするが、採用されると『海外だけはイヤ』と平気で言う。採用されるためなら平気でうそをつく学生も増えており、はっきり言って信用できない」と、前出の電機メーカー幹部はこぼす。
かつて外国人留学生は、日本企業から「企業文化になじまない」「協調性に問題がある」と敬遠されてきた。が、外国人留学生を多数採用している電子部品メーカー経営者は「留学生の多くは優秀だが謙虚で協調性もあり、早く職場に溶け込んでスキルを磨こうと必死で頑張っている。中高年層から見れば、仕事もろくにできないくせに権利意識とプライドばかり高い今の日本人学生よりも、よほど日本人らしい」と太鼓判を押す。
経済のグローバル化が進み、日本企業も「別に日本人を優先的に採用する必要はない」(前出のIT企業人事担当者〕と気づき始めている。企業だけでなく、労働力も厳しいグローバル競争にさらされつつあるのだ。
『NEW LEADER』2010.9
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コメント
いつも楽しく観ております。
また遊びにきます。
ありがとうございます。
投稿: 履歴書の添え状 | 2010年9月 1日 (水) 午前 12時04分