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2010年6月13日 (日)

時代はアニミズムへ

B100613_2 福沢諭吉の著した『学問のすゝめ』が明治初期に発行されて以来、140年近くの歳月が流れた今日、改めて学問の今日的意味を見直すきっかけを与えてくれたのが、『一神教の闇』(ちくま新書)を著した安田喜憲氏でした。同書の「はじめに」において、安田氏は以下のように述べています。

たとえば最澄や空海、さらには親鸞や日蓮の思想は、千年以上にわたって日本人の心に受け継がれてきた。自分が学問をすることの意味とは何かを考えたとき、最終的にめざすべきものとは、そうした千年も受け継がれるような新たな文明の潮流の根幹となりうる思想を提示することであると思う。(『一神教の闇』p.8)

安田喜憲氏の一連の著書を紹介してくれたのは、国際政治コメンテーター藤原肇博士の思想に共鳴し、年に数度都内で開催している脱藩道場のメンバーの一人、Kさんです。21世紀の最大の課題は環境問題であることを、Kさんは早い時期から見抜いており、会合の度に貴重な資料を惜しげもなくメンバーに提供してくれる他、パソコンを使った写真や図表を駆使して、昨今の環境問題を解説してくれる有り難い道友です。

そのKさんを通じて知ることになった安田氏は多くの著書を著しており、環境関連だけに絞っても、『気候変動の文明史』(NTT出版)、『日本よ、森の環境国家たれ』(中公叢書)、『文明の環境史観』(中公叢書)、『森のこころと文明』(NHKライブラリー)、『気候が文明を変える』(岩波科学ライブラリー)などの著作が目を引きます。中でも、一神教と環境問題を結びつけた上記の『一神教の闇』(ちくま新書)は、今年に入ってから最も印象に残る本となりました。同書を通読しながら筆者が注目したのは、日本と世界はどのような環境問題に直面しているのか、そうした環境問題を克服する道はあるのかという2点でした。

最初に昨今の環境問題ですが、そのあたりを明瞭に述べた箇所を幾つか以下に羅列しておきましょう。

二十一世紀は、誰が見ても巨大な地球環境の変動が刻一刻と生じ、巨大災害が私たちを襲う時代である。そして超越的秩序を振りかざす文明の衝突が、世界の平和を危機に陥れる。この世紀は地獄の世紀となるのかもしれない。二千五百年前がそうであったように、まったく新しい巨大な宗教が誕生する時代ともなるであろう。(『一神教の闇』p.31)
※筆者注:ここで云う「超越的秩序を振りかざす文明」とは一神教圏の文明を指しています。

現代文明は物質・エネルギー文明の段階から、情報文明の段階にようやくたどりついた。しかし、地球環境問題に端を発する人間生存と環境の危機は、物質・エネルギー文明と情報文明のみでは、もはや近未来の文明を持続的に維持できないことを明白に物語っている。(『一神教の闇』p.46)

もしこのまま中国の経済発展が進展し、世界の資源が消費されていけば、二〇二五ごろに第一次の環境危機が到来し、二〇七〇年頃に現代文明が崩壊する可能性が高い。(『一神教の闇』p.200)

現状は、「二〇二五ごろに第一次の環境危機が到来し、二〇七〇年頃に現代文明が崩壊する」道を、我々人類は突き進んでいると云っても決して過言ではありません。では、我々はどうするべきなのか? 安田氏は日本を救う方法として、以下のように八つの戦略を提示しています。

(一)「全球アニミズム」運動化の展開
(二)「国際結婚」の奨励
(三)「文化交流」の促進
(四)「アニミズム連合」・「少数民族連合」の結成
(五)「和魂洋才外交」の断行
(六)「アジア太平洋アニミズム連合」の構築
(七)「森の環境国家」としてアジアの環境大国を構築
(八)「ハイテク・アニミズム国家」の構築

(『一神教の闇』p.186)

それぞれ重要な指摘を含んだ安田氏の構想する戦略ですが、各々の戦略の具体策は同書に譲るとして、(六)の「アジア太平洋アニミズム連合の構築」についてのみ、以下の図(『一神教の闇』p.153)を引用しつつ私見を簡単に述べておきましょう。

Animism 

アジア太平洋のアニミズム連合の結成を呼びかける安田氏は、さらに以下のように日本の進むべき道を述べています。

二十一世紀の日本が中国の傘下に入るのかそれともアメリカを選ぶのかで国論を二分するのではなく、もう一つの道がある。そして日米同盟を堅持しながら、アジア太平洋の「アニミズム連合」の中で日本が生き残る道である。
(『一神教の闇』p.154)

ここで、安田氏の云う「アニミズム連合」という宗教的な連帯の他に、日本にはツランという民族的な連帯があることを忘れるべきではないでしょう。筆者としては、寧ろ「ツラン連合」を呼びかけたいと思います。ツランに関しては拙ブログでも取り上げていますので、参照して戴ければ幸いです。
ツランという絆

さて、未だ始まって10年も経たない今世紀を振り返れば、21世紀という大きな節目を迎えて半年が過ぎた2001年9月11日、911という象徴的な大事件がアメリカで起きました。911は一般的にオサマ・ビンラディンを首謀者とするテロ事件とされていますが、同時にアメリカの自演自作という噂も根強く残っています。どちらが本当であるにせよ、共産主義に代わったイスラムという敵を仮に倒したとして、また新たな仮想敵を誕生させるのが一神教です。それは中国かもしれないし、またはアニミズムの世界に生きる日本かもしれないのです。それにしても、世界を滅亡に追い込んでいる一神教とは一体何なのか、次回、その一神教の正体に迫ってみたいと思います。

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コメント

mimiさん、投稿有り難うございました。ご主人に拙ブログを読んでいただいているとのこと、光栄です。

尤も、翻訳関係の記事は年に1本書くか書かないかのレベルですが、それでも宜しければ今後もお付き合い戴ければと願っています。

翻訳に限らず、書きたいネタは沢山あるのですが、mimiさんも先刻承知の通り、この生業は時間に追われる仕事であるため、なかなか時間が取れません。それでも秋頃には、約束はできないものの、翻訳関係の記事を一本書きたいと思います。当面は、つむじ風さんのブログでコメントしていきますので宜しく。

健康面ですが、ヨガを毎朝欠かさずにやり(30分前後)、さらに古事記の上巻の三分の一、三貴子(みはしらのうづのみこ)誕生あたりまでを完璧に覚えましたので、古事記無しに毎朝40分かけて暗誦しています。あと、さらに時間があれば近くの野山に分け入り、植物観察をしたいと願っています。


サムライ拝

投稿: サムライ | 2010年7月14日 (水) 午前 07時32分

記事とは関係のないコメントでごめんなさい。

サムライさんお返事ありがとうございました。
嬉しくなって主人に話してみたら・・・。
ナ、ナント以前からこのブログの読者だと言うのです
ただ、コメントとかするタイプの人では無いんですけどね。
4年前、フリーで翻訳をはじめた頃から参考にさせて頂いているらしく、彼もこの偶然に驚いていました。
主人に代わりましてお礼を申し上げます。

翻訳に関する記事さっと目を通しましたが、私にはやはりチンプンカンプンだけど
例のリーマンショックの時、そういえば仕事の依頼が激減したなあ・・とか色々思い起こしました。
世界の景気の影響をもろに受けるお仕事だから、本当に大変ですね。
目も疲れるし、運動不足になるし

これから本格的に暑くなります。。
サムライさんも健康には十分お気をつけ下さいね。

投稿: mimi | 2010年7月13日 (火) 午後 11時25分

投稿有り難うございます。次回取り上げる予定の拙稿「一神教の正体」は、天童竺丸氏が著した『憎悪の呪縛 一神教とユダヤ人の起源』(文明地政学協会)を取り上げることになると思います。その天童氏、安田氏の本の書評を自身が編集しておられる『みち』に書いていますので、上記拙稿アップ時に公開する予定です。

なお、百人一首の太田明さんとは時折連絡を取り合っており、数ヶ月前に学研の『ムー』に載った太田さんの記事の英訳を頼まれていますが、難しくて足踏みしています。
http://www.asyura2.com/09/bd57/msg/679.html

投稿: サムライ | 2010年6月14日 (月) 午前 07時12分

サムライ様
安田喜憲氏の「蛇と十字架」に始まり、『一神教の闇』「大地母神の時代」『龍の文明 太陽の文明』「日本よ、森の環境国家たれ』「文明の環境史観』「森のこころと文明』「気候変動の文明史』など安田先生は沢山の素晴らしい著書をお書きになっています。
私は5年ほど前から大ファンでほとんどの本を読んでいますし友人にも紹介してきました。
昨日初めてサムライ様にメールを送り、次の日に、サムライ様が安田先生の記事を書かれたこの共時性に驚いています。
「気候変動が文明を変えるは」昨今の環境問題を根本から解明してくれます。ちなみに現在地球は寒冷化に向かっているようです。
古神道研究の私には「龍の起源からしめ縄、森を守る文明、鎮守の森神社」など神道系の本とは違う視点で、天体から地理、民族の歴史、環境問題などグローバルに全てを繋げてくださる方です。
安田先生について沢山情報をもっていますが、京セラの稲盛さんとヨーロッパの4大文明より古い文明が中国に存在していた遺跡を発見されています。中国四川省の大地震のあたりなのでもしやその事実を消すために地震が起きたのかとも考えました。又安田先生は私の尊敬する故吉野裕子歴史研究家を尊敬されています。
書きたい事は山ほどありますが、サムライ様と興味が共有出来た喜びをお伝えしたく書きました。

追記「百人一首の魔方陣」太田明著も持っていますが難解で読めませんでした。

投稿: 虹」 | 2010年6月13日 (日) 午後 09時13分

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