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2007年5月21日 (月)

政治の暴走を防ぐ言論界の役割と平衡感覚の価値

社会の木鐸としてのジャーナリズム精神を、日本のマスコミが失ったと叫ばれるようになってから久しく、同様の傾向は9・11以降のアメリカのマスコミにもありました。しかし、以下の記事に見られるようにアメリカのマスコミも「目覚め」つつあるようで、次は日本のマスコミにも「目覚め」て欲しいと期待したいところですが、果たして…?

『財界にっぽん』2006年2月号

[遠メガネで見た時代の曲がり角] 連載第3回



政治の暴走を防ぐ言論界の役割と平衡感覚の価値

藤原肇(フリーランス・ジャーナリスト)在米


言論の威力によるラムズフェルトの更迭

 中間選挙で共和党が上下両院でマジョリティを失い、ブッシュ大統領は大敗北に終わった結果に対して、「失望している。責任の大部分は共和党を率いる自分にある」と認めた。そして、イラク侵略と復興作戦においてヘマの連続で、惨敗選挙の原因を作ったラムズフェルト国防長官を更迭した。だが、更迭自体は「辞任を認めた」というすり替え論理だったが、更迭せざるを得ない状況が選挙直前に起きていた。

 それは投票日の前日に発表される予定の社説が、四日前の11月3日にメディアに公表され、全米に報道されて津波現象を誘発していた。その社説の最後の数行は印象的であり、米軍のイラク占拠政策の破綻を論じてから、「・・・これは中間選挙などではない。11月7日にいずれの党が勝つにしても、大統領は厳正に照らし出された真実に、直面しなければならない時に至っている。ドナルド・ラムズフェルドは去らなければならない」。この社説は投票前日の11月6日に発売になる『陸軍タイムス』を始め、『海軍タイムス』『空軍タイムス』『海兵隊タイムス』に掲載されている。

 『陸軍タイムス』を始め軍人と家族を読者にした各紙は、国防総省や軍関係が発行する新聞ではなくて、ガネット・グループという民間のメディアの刊行物だ。また、ガネットは全国紙の『USAトゥディ』を始め全米で100紙の日刊紙や、ラジオ局やテレビ局を幾つも経営するだけでなく、英国やドイツでも新聞や雑誌を出している。だから、日本の大新聞と経営スタイルは大差なく、オピニオンとして発表した社説の威力が、支離滅裂な政治と誤魔化しによる情報の歪みに対して、言論として効果的に機能を発揮したと言える。

 11月3日から4日にかけてCNNやCNBCを始め、大手メディアやそのホームページが情報を流したので、その影響で5日の「ニューヨーク タイムス」の社説は、「ブッシュ政権で議会を主導してきた多数派の仕事ぶりは酷かった」と決め付け、中間選挙では共和党候補者をいっさい支持しないと断言した。投票直前に盛り上がった報道界の批判の声は、それまで鬱積していた閉塞感に対して、アメリカ人の反発が炸裂したと観察できた。

民主主義の基盤としての報道の自由

言論界の役割は国民に事実を報道すると共に、政治家や役人など公人の動きを注視して、政治による権力の乱用を監視する点にあり、それが言論活動を「社会の木鐸」と呼ぶ理由でもある。選挙や試験による選択を経た政治家や官僚と違って、言論活動は誰にも開かれた場であるので、発言の正統性は市民からの信頼と支持に担保される。だから、市民の側に軸足を置かないメディアは、ジャーナリズムの範疇に入らないのは当然なのだ。

 米国では憲法の修正第一条が「表現・報道の自由」であり、何にも増して重要な権利だと認められているし、報道の自由は民主主義の基盤であると考えて、公権力が機能する上での絶対条件だとされている。司法、立法、行政は相互牽制で鼎立するが、この公権力を監視する役目を持つ報道界が、第四の権力と呼ばれるのは監視能力に由来している。

 だが、政治的に後進国の日本では議会が脆弱で、国会議員が法律を作れないだけでなく、法案を討議する能力や手続きが欠けており、行政府が立法と司法を支配しているために、民主主義も議会主義も機能していない。ドイツの憲法を「ドイツ連邦基本法」と呼ぶが、基本法が憲法に準じるものだと理解せず、議論抜きで「教育基本法」を強行採決したように、日本は政治的に野蛮国そのものなのである。

 それは報道界が報道の自由を尊重せず、正しい情報を国民に伝える責任を放棄して、記者は役人の発表を記者クラブで貰うし、幹部は官庁や政府の審議会の委員になり、公権力の監視ではなく窓口役になり果てている。だから、ガネット・グループや「NYタイムス」が断行したような毅然とした批判の記事は、自己規制に毒された日本に登場しないのだ。その点では日本の出版界も腰抜けであり、私の『小泉純一郎と日本の病理』が出るまでは、小泉批判の本は書店に並んでいなかった。だが、拙著は自己規制で三割も削られた上に、最初の二ヶ月で五刷りになったのだが、新聞や雑誌の書評はゼロで黙殺されたのだった。

 それに対してアメリカの言論界は健在であり、選挙の一ヶ月前の10月2日発売ということで、「ワシントン・ポスト」のボブ ウッドワード記者が書いた『否認の国家』が出た。しかも、三日間で百万部を越す大ベストセラーになったが、9月30日に「NY・タイムス」が書評に取り上げただけでなく、メディアもこの本を話題にして騒然としていた。また、「ニューズ・ウィーク」の10月8日号はこの本を取り上げ、14頁にわたる特集記事を掲載して議論しているが、公権力に対しての報道界の対応は実に見事だった。

報道のメッセージは活字だけではない

イラク侵略政策の破綻がブッシュ政権を痛打して、ラムズフェルド国防長官が辞任した経過を始め、選挙の結果について既に多くの人が論じている。この選挙は共和党の保守本流派と中西部のリバータリアンが、宗教右派とネオコンの専横に辟易したために、軍人向けの新聞やブッシュに近いウッドワードまで、驕慢な権力者に反旗を翻したことが重要だ。

 私が注目したのは11月9日の新聞の記事だが、アメリカの選挙に関しての報道に見る限り、分析や解説において米国の有力紙の記事よりも、英国の高級紙の方が遥かに優れていた。経済紙の「フィナンシアル・タイムス(FT)」と「ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)」ではいつもFTが優勢だが、この日もWSJの記事はFTに圧倒されていた。 私は特に「ニューヨーク・タイムス(NYT)」「ロサンジェルス・タイムス(LAT)」の二紙を丹念にチェックしたが、NYTが16頁でLATは21頁の選挙特集頁を組み、圧倒的な紙面を選挙結果に割いていたのに、内容の深さでは僅か2頁のFTの記事に較べて、米国の有力紙が劣っていたのが印象的だった。

 FTは2頁目のトップには三人の笑顔の顔写真で、勝者としてBarack Obama(イリノイ上院議員),Arnold Schwarznegger(カリフォルニア州知事),Joe Lieberman(コネチカット上院議員)を並べ、3頁目は敗者の苦虫を噛み潰した写真として、Conrad Burns(モンタナ上院議員),Donald Rumsfeld(国防長官),News Gingrich(前上院院内総務),Rick Santrum(ペンシルバニア上院議員)の順で並んでいた。しかも、2頁目の中央に大きくNancy Pelosi(次期下院議長)の破顔の写真があるのに、3頁目には敗者の総帥Bushの顔写真さえ欠落しており、そこに英国風の風刺の効いたユーモア感覚が読み取れた。

 それ以上に印象的だったのは一面の写真であり、各紙共にブッシュの両側に国防省を牛耳るラムズフェルトとゲーツが並ぶが、FTではブッシュは困惑した表情をしており、新旧の国防長官は苦渋に満ちた顔だから、この日の一面に相応しい写真が使われていた。また、LAタイムスも三人が緊張した表情の写真だのに、NYタイムスの写真では何と三人が笑っており、状況に全くふさわしくない写真で唖然とさせられた。

 これは編集や校閲の弛緩状態を明示しており、最近のNYタイムスの論説や意見欄の酷さと同じで、一流紙という評価が果たして正しいのかと、疑いたくなるようなお粗末さぶりだった。見出しの写真が状況や記事の内容と肉離れしても、それを読者が気づかないと思い上がって手を抜けば、幾ら長い伝統を誇っても無意味であり、米国の一流紙は英国の高級紙に差をつけられてしまう。日本人が有難がって論評を引用するが、「百聞は一見にしかず」を象徴するのが写真だし、一流紙でも油断大敵に支配されているのである

報道写真で思い出すのは、1989年に発生した朝日新聞の珊瑚礁事件です。父の代から朝日新聞を購読していた拙宅ですが、珊瑚礁事件をきっかけに、暫くして朝日新聞の購読を止めて東京新聞に切り替えています。その後、『朝日と読売の火ダルマ時代』(藤原肇著 国際評論社)や『夜明け前の朝日』(藤原肇著 鹿砦社)を通じて一層朝日新聞の内幕を知るところとなりましたが、上記の記事にあるような「オピニオンとして発表した社説の威力が、支離滅裂な政治と誤魔化しによる情報の歪みに対して、言論として効果的に機能を発揮」するような記事を載せられるのは、日本の大手マスコミの中では東京新聞か朝日新聞あたりであろうし、特に朝日の持つ影響力は大きいだけに期待したいところです。

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