« 安倍内閣の世にもお粗末な首相補佐官人事 | トップページ | 驚異的な戦争のコストとルナティックな政治事 »

2007年5月22日 (火)

思考停止推し進める「改正」教育基本法

小学校の先生の筆による過日改正された教育基本法に関する意見が、5月21日付の東京新聞夕刊に載っていました。教育に関心のある方々に一読してもらいたく、以下に転載致します。


思考停止推し進める「改正」教育基本法

岡崎勝(おかざきまさる)
名古屋市立小学校教員
1952年生まれ。愛知教育大保健体育科卒。学校マガジン『おそい・はやい・ひくい・たかい』の編集人、自立独立組合「がっこうコミュニティユニオン・あいち」の執行委員などを務める。著書に『学校再発見! 子どもの生活の場をつくる」『がっこう百科』 (編著)など。

軽視される「議論をつくす」

教育基本法が「改正」されて半年がたつ。全国で学力テストが実施され、着々と教育が「改苗」されている。だが、「改革」は、現場を少しも良くしていないし、「改正」は、大きな問題を残していった。

新学期が始まった学校は、どこも「落ち着かない」ものだ。私の仕事をしている小学校でも、新しい担任や新しい教科書、新しい児童会活動や学級の係り活動など、教室が本格的に動き出すのに時間がかかる。

友だちと学校生活をうまくやっていくために、どんなふうに役割を分担するかを、子どもたちは学級会で話し合い、「決めごと」をつくる作業に取り組む。「先生が決めた方が早い」という子どもの声もときにあがる。だが自分たちの生活は自分たちで考え、試行錯誤しながらよりよいものを追求して欲しいと思う。子どもの動きが円滑になるまで、私たちは慎ましくアドバイスしながらじっと待つ。教員の「指導力」と「忍耐力」が試される時期である。

私は、昨年の教盲基本法「改正」の経過を思いだし、子どもたちの学級会に比べ、「なんと情けない、結局、でかい声が、勝っただけなんだ」という想いがわき上がってくる。私にとって「でかい声」は、桐喝的な力を誇示できるが、中身の論議を吹き飛ばしてしまうという意味である。

教育基本法も法律だから、手続きに則って改変する「可能性」は保障されていると思う。しかし、当然のことだが、民主主義は多数決「主義」の社会ではない。一番重要なのは「論議をつくす」ということなのだ。果たして今回の「改正」で論議が尽くされたのだろうか?

政府レベルの論議は、一番大事な時期に、不正タウンミーティング問題で終始し、総理は論議を尽くしたという。しかし、実質的には、与党によって強行採決されたとしか言いようがない。強行採決は「論議打ち切り」を前提としている。

政府、国会レベルだけでなく、もっと問題だと思うのは、学校現場や保護者市民のレベルでこの「基本法」が、十分に論議されていないことである。それは、「改正」したこと以上の問題があると思う。

私が改正に反対した理由の一つに、「現場の学校の現実は、教育基本法とは、程遠いものである」ことをあげた。子どもたちの自殺や子どもの虐待があいついで報道されたことによって、子育てや学校教育の現実が非常に厳しいことが分かってきたのだ。それなら、よけいに「個の尊重」という旧基本法の理念に立ち返るような論議や施策がなされなければならない。

学校の現場では、友だちの意見を十分にまず聞くこと、声に出して言えない子の気持ちを察することを教えてきたはずだ。それは、個人が大事にされない教室は教室全体が死んでしまうと思うからだ。個人の意見を聞くのは面倒くさいものだし、納得するにも時間がかかる。論議には、意地もいるし、我慢も必要になる。何より集中力が欠かせない。それを承知での民主主義なのだ。旧教育基本法は、それを念頭に置いて「個人の尊厳と自由」を重視した。

「先生、面倒だから、多数決にしてよ」「最初から負けることわかってんのにやだよ」「多数決にしていいかという姦決をしたらいいよ」といった仲問を大切にしようという論議から学ぶことは多い。

職員会でも意見を言わない教職員、意見を言わせない管理職、そんな大人社会こそ「面倒くさがりで、忍耐力がない」のではない.か。「改正」教育基本法とこれからつき合いながら、もう一度、教育の「基本」とは何かを足下から点検するしかない。「でかい声」でない、静かな「教養と知性、自由と個性」で、忍耐強く「改正」の改正を求めていきたい。

今、一番危険なことは、思考と試行を停止してしまうことだ。学校評価制度や学力テストをはじめ、子どもたちをとりまく世界では、今まで以上に、他者からの評価をすべてとし、評価で強迫される社会になろうとしている。

「国を愛すべき」という前に、「愛せる国」とはどんな国かを考える。そんな面倒なことから逃げないでいたい。「生きる力」と「忍耐力」が必要なのは、私たち大人なのだ。

07052101edu_1 07052102edu

|

« 安倍内閣の世にもお粗末な首相補佐官人事 | トップページ | 驚異的な戦争のコストとルナティックな政治事 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 思考停止推し進める「改正」教育基本法:

« 安倍内閣の世にもお粗末な首相補佐官人事 | トップページ | 驚異的な戦争のコストとルナティックな政治事 »