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2007年5月23日 (水)

驚異的な戦争のコストとルナティックな政治事

以下の記事は、今朝配信された田中宇氏の「田中宇の国際ニュース解説」を並行して読み進めると良いかもしれません。その上で、時間的な余裕があれば木村汎教授の著書や藤原肇氏との対談本『賢く生きる』(清流出版)の一読をお勧めします。
★エネルギー覇権を強めるロシア

『財界にっぽん』2006年4月号

[遠メガネで見た時代の曲がり角] 連載第5回



驚異的な戦争のコストとルナティックな政治事

藤原肇(フリーランス・ジャーナリスト)在米



 1月17日は不吉な事件の勃発に結びつくことが多い。ロスの郊外ノースリッジを襲った地震は1994年で、翌年の同じ日に阪神大震災が起きた。また、1991の1月17日には湾岸戦争が空爆により開始したが、地質を専門にしてきた私の目で見れば、一月の半ばは満月の時期と密着しているので、これは月の引力と結びついているのである。

 月の引力が最大になると地球の潮汐現象として、岩石では地殼の歪みが大きくなって地震が起きやすいし、海水が盛り上がって満潮が高潮に結びつくので、昔から海戦による奇襲作戦は満月の夜を選んでいた。また、人間の脳の中も液体で構成されているので、満月の夜は頭が異常に働くことが多いために、殺人事件や交通事故が多発することから、狂気のことをルナティック(精神の異常性)と昔から言い習わしてきた。

 明治時代に一世を風靡した『金色夜叉」の舞台も、1月17日に熱海の海岸であった出来事が見せ場であり、ダイヤモンドに魅せられカネに目のくらんだお宮に、貫一が「今月今夜のこの月を涙で…」と啖呵を切る物語だ。そんなわけで地震がなければいいと思いながら、不安な気分で1月17日の『ニューヨーク・タイムス』を開いたら、大地震や開戦の記事がなかったのでほっとしたが、その代わりにショッキングな数字が並んでいた。

 それは「1兆2000億ドル(150兆円)で何が買えるのか」と題した記事で、レオンハルト記者が計算したイラク戦争の費用がこの数字であり、150兆円は阪神大震災の被害総額の20倍ちかいものだ。偉大な大自然が引き起こした災害に比べて、卑小といえる人間の手で拡大した戦禍の方が、遥かに巨大な物質的な災害を生んでいる事実は、どのように理解したら良いかと途方に暮れる思いに包まれ、「これは別種のルナティックだな」と溜息した。

 暫くレオンハルト記者の記事に従うことにするが、「5年前に戦争が始まる前の段階では、ペンタゴンは戦争のコストを500億ドル(6兆円)と見積もっていた。下院の民主党のスタッフもそれに合意していた。ホワイトハウスのリンゼイ経済顧問はより現実的に、コストを2000億ドル(24兆円)と見積もったので、ブッシュ大統領によってクビを切られている」とあり、続いて「もし、戦争が順調でも予算は少なく見積るもので、歴史を通じて楽天的なのは世の常である」として識者の意見を引用している。

 そして、ハーバード大学のケネディ政治学院のビルメス先生と、ノーベル賞を貰いクリントン政権の顧問だったスティグリッツ先生も、イラク戦争の全費用を2兆ドルと予想したと紹介している。また、それはイラク復興費を含めた戦費であり、一日あたり3億ドル以上を費やしているという、ワシントンの経済学者ウォールセンの試算と同じで、天文学的な出費が果てしなく続くと強調している。

 双子の赤字に悩む米国は経済的に破綻寸前であり、世界一の債務国の米国は貿易赤字と財政赤字のために、誇れるものは軍事力だけだという状態だ。しかも、経済が未だ破綻していないのは不動産バブルと共に、戦争による需要景気があるためだと言われており、戦争を止めるとたちまち景気は雲散霧消してしまうのだ。

 日銀が発表した2005年末の各国の試算状況の統計だと、最も大きな対外資産を持つのは米国であるが、1030兆円の対外資産に対して債務は1303兆円で、差し引き265兆円のマイナスになり、加えて2000兆円余りの財政赤字まであるという。同じ統計で日本の数字を比較してみれば、506兆円の対外資産に対して債務は326兆円で、差し引き180兆円兆のプラスになるために、一見する限りでは金持ちに見えるが、対外資産の四割の200兆円は米国債であり、換金が不能になれば紙切れ同然になり果てる。また、中央や地方政府の借金はー000兆円を超え、借金の山に押し潰されかけているのであり、日本全体が破産した夕張市に似たようなものだし、米国もアメリカ大陸版のタ張市に他ならない。

 しかも、戦争は火災が燃え上がる地獄と同じように、エネルギー多消費型で環境を汚染して、生命も物質も殺裁と破壊している点では、地上に出現したこの世の地獄のバリエーションだ。こういったことを考えながらイラク戦争を見れば、日本人はイラク派兵で戦争に協力をしている以上は、人類の生存条件を損なっている当事者だし、イラク戦争を対岸の火事のように考えているなら、満月の晩に何が天罰として起こるか分からない。

 アフガン戦争は911事件を契機にしていたが、この事件から一カ月後もしない10月7日に空爆が始まったのは、事前に戦争準備が整っていたからだ。現にロシアから独立したムスレム諸国に進出した米軍は、アフガンの北に軍事基地を持っていて、1997年のカザフスタンに続いて翌年はウズベクスタンで、特殊部隊による合同軍事演習を行っている。

 『小泉純一郎と日本の病理」の第7章に書いたことだが、それはユノカルの天然ガス・パイプライン建設計画が関係していて、アフガン経由の石油権益が戦争と絡んでおり、軍事基地をアフガンの周辺に配置したのだ。米国のイラク侵略の背景に石油資源が関係し、石油権益のあるところに米軍が進出する以上は、[大量破壊兵器の存在]は単なる口実に過ぎなかった。

 現にアフガン侵略の直前に18ドルだった原油は、空爆と共に上昇して37ドルになったし、一息ついて2003年初めに28ドルに戻ったが、3月20日にイラン侵略すると再び上昇し始め、2006年の夏に80ドルに達した後で、現在は50ドル台の水準に戻っている。原油価格の高騰によって米国の赤字は増大し、航空券もエネルギー費が何割も加算されるし、燃料コストの高騰がインフレに結びつき、株価指数の上昇が好況の幻影を生んでいる。

 原油と天然ガスの高騰によって潤ったのは、米国が仮想敵国と考えるムスリム圏の産油国とロシアである。そのことはロシアの専門家として知られた、木村汎拓殖大学教授とロシア問題について対談した時に、私は非常に興味深い情報を耳にしている。それは「石油の世紀から天然ガス主役に」と題した対談で、『賢く生きる』(清流出版)の中に収録してある。また、この本には岡田充共同通信論説委員と試みた、「アフガン戦争で始まった21世紀のアジア情勢の展望」という記事もあるので、本稿で言い尽くせなかった部分はそちらを参照されたい。

 木村先生の興味深い発言は次のようなもので、対談した時の原油価格は30ドル余りだったが、展望として蘊蓄に富む指摘を含んでいた。

 「エリツィンやプーチンが大統領になる以前の段階では、ロシア人にとり外交上の切り札は核兵器であり、ハードな兵器が国際政治の取引材料であった。ところが、2001年9月11日以降は、アフガンやイラクの戦争のせいで、原油と天然ガスの価格が高騰した。

 最初はーバーレル当たり18・5ドルで予算を組んでいたが、石油価格がードル上がるたびに原油大国のロシアには、2000億円の増収が転がり込んでくる。だから、石油が30ドル、35ドルと高騰するにつれてボロ儲けになり、最近ではクドリン財務大臣が、石油価格が28ドルなら、ロシアの経済は心配ない、と至って強気な姿勢を示している」。ブッシュは取り巻きのネオコンやロビイストに煽られて、米国にとっての仮想敵国に「神風」を提供したのであり、これを「ルナティックな政治」と呼ぶのではないか。

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