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2007年4月 2日 (月)

『月に響く笛 耐震偽装』

B070402 『月に響く笛 耐震偽装』は、発売後直ちにイマイルに発注して取り寄せた本でした。仕事が忙しかったこともあり、また他の本と並行して読み進めていたため、読了するまでに大分時間がかかりました。そして漸く読み終えてつくづく思ったことは、藤田氏が中国古代の兵法書である『孫子』か『六韜』に多少でも精通していたら、今回の耐震偽装事件は違った展開を見せたかもしれないということでした。同書を読む限り、藤田氏が直接相手にしたのは官僚や大手マスコミだったのですが、実はその背後に目に見えぬ本当の敵がいたのです。

本当の敵については後述するとして、最初に耐震偽装とはどのような性格の事件だったのかについて述べてた箇所を同書から引用しておきましょう。

問題の根源は、構造計算プログラムの評価と認定そのものにあったのだ。認定をした国土交通省と、事前の評定を行った日本建築センター、この両者が偽装問題をもたらした原因を作っていた

『月に響く笛 耐震偽装』(藤田東吾著 イマイル)p.174

私も最初はそうでしたが、上記の簡単な引用だけでは、何故全ての悪の根源が国土交通省と日本建築センターにあったと藤田氏が主張するのかピンと来ないと思います。よって、ここは是非同書に目を通すことをお薦めします。ともあれ、さらに同書を読み進めていくうちに藤田氏の以下の言葉に出会い、深い共鳴を覚えたのでした。

日本が真の意味で「法治国家」になる為にも、この耐震偽装事件の真実は白日の下に晒されて、誰が悪いのかを明らかにし、遺族と被害者の前に謝罪をさせ、償いの機会を与えなければならない。それが、日本国民としての一人一人の義務なのだ。

『月に響く笛 耐震偽装』(藤田東吾著 イマイル)p.344

上述のような藤田氏の姿勢は、官僚や大手マスコミについて言及している箇所にも如実に現れています。

 僕は、この次官発表を聞き唖然とした。親御子供の首を絞めて殺した。子供が素直に悪い人の行いを見つけて報告したら、親はその人たちを咎めるのではなく、発見したお前が悪いと言って、自分の子供の首を後ろから突然諦め殺した。薄まる意識の中で光が闇に変化する中でも、子供は親を信じて愛する気持ちは失われないことを、手に力を加える親は感じようともしなかった。僕は正直、国土交通省に対してそう思った。

 今となっては憎しみも消えたが、当時の建設指導課、いや国土交通省の北側一雄大臣、佐藤信秋事務次官、山本繁太郎住宅課長、小川富吉課長、他課長は、公務員としての原罪を背負ったと思う。自覚する繊細さも既に失われているかもしれないが、罪は歴史に刻まれた。国民への奉仕の精神を捨てて、利権構造を死守することに自分達の魂を葬った。必ず罪を贖わなければいけない時が来る。

『月に響く笛 耐震偽装』(藤田東吾著 イマイル)p.82~83

 僕は、この事件を経験するまでは、自分に利害関係が生じないような、記事や報道は鵜呑みにしていたと思う。今、それは間違っていたと実感している。全てに穿った眼差しを注げというのではない。正しく見ようとし、考えようとする姿勢を、取り戻しただけだ。この事件の体験に従えば、渡辺恒雄も、読売新聞の記者も、リアルタイムの笛吹雅子も、河上和雄も、そしてテリー伊藤も、報道番組に出る者の資格があるかどうか。たとえ彼らが他の局面では評価を得ている人達だとしても、耐震偽装に関しては、羊頭狗肉であったと思わざるを得ない。

『月に響く笛 耐震偽装』(藤田東吾著 イマイル)p.377~378

このような藤田氏ですから、小泉首相(当時)にメールを発信したという下りを読んだ時も驚きはしませんでした。しかし、余りにも小泉純一郎という人間の正体を知らなすぎる人の言葉です。ご参考までに、藤田氏が小泉に送信したというメールは以下のような内容でした。

2006・3・15 12:02
差出人:
宛先:
内閣総理大臣 小泉純一郎様


私はイーホームズという会社を経営する藤田東吾と申します。
今般、大きな社会問題となった耐震偽装事件を世に公表した者です。
この事件が建築業界を揺るがし、住民や日本国民が建築や建築行政に対する信頼を低下させてしまったことを建築行政に携わる民間機関の代表者として深く反省しております。小泉首相にもご面倒をおかけしていること深くお詫び申し上げます。申し訳ありませんでした。
私は、この事件をなぜ公表したのかを小泉首相にお伝えしたくてメール致しました。
私は、民間開放によって、この業界の先駆者として業務を続けてきた誇りと使命感を持ってこの事件を世に公表しました。この事件が民間開放以前から、建築業界の闇の部分として一部の者達によって行われてきた事実。確一認検査制度や大臣認定プログラム制度の不備や盲点を突いた犯罪が繰り返されてきたことを見過ごすわけにはいかなっかのです。私は、民間の指定機関だからこそ公表できたと考えています。この公表によって耐震偽装事件が二度と生じない法改正が行われるなら大きな民間開放の成果です。
次のようなことを言う人もいます。公表したのは青すぎたのではないか?行政などなら発覚しても表に出さなかったのではないか?確かに旧態依然の社会であるならそうした通念がまかり通っていたかも知れません。私は、二十一世紀の日本はそんな時代であってはいけないと思います。間違ったものを間違ったものと指摘し情報公開できる社会でなければなりません。耐震偽装のような人の命や財産を無視した不法行為を世に問うことができなければ、プロ集団としての民間指定機関の意義と誇りを失うことになります。私は社会正義を持って公表したことに一切の迷いはありません。耐震偽装事件を世に公表してから五ヶ月近い時が経過しました。現在、会社には技術職を中心とする一三〇名の社員が誇りを持って仕事をしています。私どもは第一公表者でありながら一部の報道等によって傷ついた信頼と業績を一刻も早く回復し、この社会的意義のある事業を日本の為に続けていかねばなりません。私はそう信じております。
小泉首相、私はこの事件を世に問い、正すことができたのは行政改革、民間開放の大きな成果だと信じでいます。この思いをお伝えしたくメール致しました。公務ご多忙の中お時間をとらせてしまうことお許しください。深く感謝申し上げます。

イーホームズ株式会社 eHomes Inc. 代表取締役 藤田東吾
東京都新宿区南元町八番地多士ビル

『月に響く笛 耐震偽装』(藤田東吾著 イマイル)p.399~401

藤原肇氏の『小泉純一郎と日本の病理』(光文社)および同書の英語版『Japan's Zombie Politics』(Creation Culture Co., Ltd. Publishing)、松田賢弥氏の『無情の宰相 小泉純一郎』(講談社+α文庫)などに目を通してきた人たちであれば、小泉前首相に上記のようなメールを送信した藤田氏に対して唖然とする他はないであろうし、孫子の「敵を知り己を知らば百戦危うからず」という教えが咄嗟に脳裏に浮かんだ人たちも多かったのではないでしょうか。「僕は、マスコミとは真実を伝えるのが仕事だと思っていた」(『月に響く笛 耐震偽装』p.366)という藤田氏は余りにもナイーブすぎました。

さらに付言するとすれば、藤田氏は最近注目されている関岡英之氏の一連の著書に目を通すべきでした。特に『拒否できない日本』(初版が平成16年(2004年)4月20日であり、耐震偽装事件前に発行された本)は、日本人に「年次改革要望書」の存在を広く世に知らしめただけではなく、1998年6月に建築基準法が全面的に改正された背景も具体的に教えてくれる好著です。今回の耐震偽装事件に直接的にも間接的にも関与してくる、建築基準法の全面的改正についての詳細は同書に譲るとして、今回の耐震偽装事件を引き起こした真の黒幕は、第一にアメリカ政府、さらには小泉前首相および竹中平蔵といった取り巻き連中なのです。アメリカに言われるままに官から民へという名の規制緩和を推し進めてきた小泉純一郎の責任は非常に重いと言わざるを得ません。それ以上に、日本人としての誇りに傷をつけたことは永遠に消すことのできぬ汚点として歴史に残るのです。ここで、小泉純一郎という人間の正体を知りたい読者は、『Japan's Zombie Politics』(Creation Culture Co., Ltd. Publishing)をお薦めします。同書は『小泉純一郎と日本の病理』(光文社)の翻訳版という形を取りますが、著者の藤原氏に言わせれば「内容的には日本語版に較べて、少なくとも百倍は良くなったと確信しており、自分の言葉と思想を取り戻せたと思います」という内容なので是非一読ください。
 英語版Japan's Zombie Politicsの出版について

なお、同書の前書き、目次、後書きも以下のURLに転載してあるので、一度目を通すと良いでしょう。
Japan's Zombie Politics

追伸】規制緩和と耐震偽装の関係については、SENKIというウェブ新聞を一読ください。
 小泉「改革」のツケが回ってきた コスト優先が招いた耐震偽装事件

【追伸2】上記のテーマから外れますが、以下の灰色の囲みは『月に響く笛 耐震偽装』の中でも深く共鳴した箇所の一つだったので転記しておきます。

 新宿支店の立入検査に立ち会っている際中に、24日の朝から行方不明になっていた森田氏の乗り捨てた車が茅ヶ崎市で発見されたとニュースが流れた。森田氏は翌26日土曜日に遺体となって稲村ガ崎の海岸で発見される。偽装事件を取り巻く奥行きは深く広がるばかりだった。
 発見と同時に警察は即座に自殺と断定した。「何故簡単に決めてしまうのか」と不思議に思ったが、年が明けて1月に沖縄でHS証券の野口氏が遺体となって発見され自殺と警察が断定した時には、もっと「何故」という気持ちが強かった。僕は一回しか会ったことのない森田氏より、数回の対面とフランクな会話をした野口氏の方をよく知っていたからだ。
 野口氏はイーホームズの株式公開に関しては、幹事証券に参加しようと来社していた。また、異業種交流会でもお会いしたともあり、自殺を簡単にするような人ではなかった。というよりできない人だ。独り身ならまだしも、小さな子供がいる父親が、たとえ厭世の気持ちがあったとしても、いざとなったら自殺なぞ実行できるものではない。子供の父親が自殺したと生涯烙印をさせてよいと思う親であるわけがない。僕自身深く深く実感するところだ。森田氏にもお嬢さんがいると聞く。僕は「耐震偽装」によって、この時点では命の被害は住民の誰においても生じていないのだから、森田氏が自殺する理由が考えられなかった。勝手に、自殺の理由を考えたのは警察とマスコミだ。堕落しきった日本のマスメディアは、一体、何を目的に存在しているのだと憤りを感じるばかりだった。
『月に響く笛 耐震偽装』(藤田東吾著 イマイル)p.330

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