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2005年9月20日 (火)

地上最大の産業

私の手許に『虚妄からの脱出』(東明社)という本があり、1985年6月25日の刊行と印字されているので、今からちょうど20年前に上梓された本と云うことが分かります。そして、同書の第一章が「石油開発の弁証法」となっており、その中に「石油が現時点で持つポテンシャルと、近い将来に惹起するであろうインパクトについて大雑把に取り出してみると、次のような興味深いものが顔を並べる。これらについて記憶しておくことは、明日のビジネスや生活を計画し、その基本戦略を考えていく上で、決して無駄になることはないと思われる」と書かれた個所が目を引くのであり、当時はワープロも無かった時代だったので、私は川喜田二郎氏の開発したKJ法よろしくカードに以下の内容を書き写し、折に触れて目を通したものです。余談ながら、その川喜多氏には本田技研で行われた講演会で一度だけですがお会いしており、当時の私は本田技研の社員でした。本田技研については色々と思い出があるので、ここで言及したのを幸いに機会があればいずれ一つのエピソードとして書くとして、「地上最大の産業」という主テーマに戻り、私が過去20年間にわたり人生の指針の一つとしてきた文章を以下に転記しておきましょう。

 地上における全ビジネスの30%余りが、ほとんど直接的に石油と関係を持つ。また間接的なものをいれると50%を超すこと。

 世界貿易の過半数に相当するものが、金額的にも輸送量の上からも石油によって占められており、わが国の輸入の3分の1も石油であること。

 全世界のエネルギー消費量の約60%、また、わが国のエネルギー源の75%が石油に基づいている。日本の場合、石油の99.7%が海外からの供給に依存しており、日本系の企業が開発した石油の比率は非常に僅かであること。

 1973年の石油パニック以来、石油の値段はそれ以前に比べて4倍になり、世界経済は非常に大きな影響を蒙り、慢性的なスタグフレーションが定着している。社会の後遺症は深刻であり、人びとは石油暴騰の実感を肌で感じているとはいえ、(1970年代は未だ安い石油の最後の時期に属し)80年代とともに石油高価格時代が本格化する。しかも、金を出しても石油が手に入らない時代の訪れとともに、高い石油時代が本格化する1980年代半ば頃までには、さらに5倍か6倍の価格に高騰すると予想しうること。(1979年6月に石油の国際価格は再び倍増し、79年から80年にかけての期間に、石油の値段は執筆時点の3倍になっている)

 1980年代に精製プラントの過剰時代が始まり、ヨーロッパとアジアで多くの精油所とペトロケミカル設備が遊休化し、操業不能に陥る。こういった事態によって幾つかの国が経済破綻に見まわれるが、日本もその中の一国になりうること。

 石油の埋蔵量は地球上に偏在しており、そのほとんとが中東を中心にしたアフリコーユーラシアの3日月地帯にある。また、中東石油の埋蔵量と生産能力の7割余りを握るサウジアラビアとイランの政治情勢は安定している訳ではない。共に中世的な封建的専制体制をとり、1980年代に革命あるいはクーデターが起こるのは確実視されている。(注、その後イランに革命が起こりイスラム共和国が誕生したが、これは革命の始まりであって終りではない)。しかも、伝統的にアラブ人とペルシア人の敵対関係は熾烈であり、たとえ幸運にも混乱が短期間のうちに終息するにしろ、中東に全面依存する世界の石油供給体制は大混乱に陥ること。(注、イラン革命を通じたイラン石油の輸出能力低下は、石油供給量の減少を招いてスポット価格高騰と結びつき、投機的なパニック買いやドルの減価を派生することによって供給不安を強めている)。

 文明におけるエネルギーの歴史からすると、石油は石炭から水素への橋渡しを担当しており、その役割は次第に軽減する。とはいえ、現在の産業社会は完全に活力を石油に依存しており、この状態は21世紀が始まっても暫くは続くことになる。今後の30年間は石油が相変らず産業社会のエネルギー源として主役の位置を保ち、石油を確保できないことは、社会にとって死の宣告を意味し、石油飢餓が慢性化すること。

 石油産業は開発、生産、輪送、精製、販売の5つの基本部門が垂直に統合されて出来ている。しかし、わが国にはダウンストリームと呼ばれる精製と販売の部門があるだけで、アップストリームを構成する開発と生産の部門が、ほとんど発育不全である。アップストリームはソフトウェア指向であるが、この部門の整備と育成は、日本の生存にとって最も重要であり、国家の安全保障を考える上で根幹をなす政策課題であること。

 1973年秋のエンバルゴ以来、石油の取り扱いについての産油諸国の発言権と決定権は大いに強まった。しかし、石油開発技術と人材面での米国の優位はゆるぎなく、自由経済体制圏内で、この面でのポテンシァルは80%以上が米国系で、アメリカ資本の石油会社とアメリカ人が独占支配をしている。また社会主義圏を含む全世界の場合では、米ソ両国がこの面で95%以上を支配しており、石油資源の分野は国際政治と軌を一にしていて、米ソ二大スーパー・パワーの優位は圧倒的であること。

 一般に石油ないし石油資源ということばを使う場合には、その中に天然カスを含めており、現在では天然ガスが石油ビジネスの4分の1を占めている。今後は天然ガスの重要性と価値が飛躍的に高まり、1980年代には天然ガスが全石油ビジネスの半分以上を占めるようになる。石油から天然ガスヘの推移は炭化水素が水素に向かって収斂していく運動に対応しており、テクノロジーの発展に伴って水素エネルギー時代に移行すること。

 エコノミストの多くは、ウォール・ストリートや兜町の株式市況や商い高をもとにして、近い将来における経済の動きや産業活動の趨勢を判断する悪い伝統に支配されている。しかし、株式市況などは病入の体温と同じで、病状の単なる指標にすぎず、疾病の内容そのものを意味するものではない。20世紀における発達した産業社会の健康を根底から支配しているのは石油エネルギーであり、石油の動きが経済の流れと方向を決定づけ、経済市況や景気の動向を左右する原動力となっている。この点で、石油問題に目をつむったままの政策論や経済論は、そのほとんどが机上の空論であり、政治を考える上でエネルギー史観に基づいた政策論が今後いよいよ重要になり、その鍵を握るのが石油開発の弁証法であること。

細かい点、例えば「米ソ二大スーパー・パワー」の時代から「米一大スーパー・パワー」という時代に移行した点などがありますが、大枠では大きく変わっておらず、強いて云えば20年前は石油に代表される産業社会が黄昏を迎えていた時期でしたが、現在は東の空が仄かに青みがかかっていることから、間もなく情報化社会の夜明けを迎えようとしている時期という点で大きな違いであると云えるでしょう。ともあれ、上記の抜き書きが私という一個人の指針の一つとなり得たのは、『虚妄からの脱出』のまえがきにヒントが隠されていますので、関心のある方はクリックしてみてください。そのまえがきにもあるように、問題解決に行き詰まったら、次元を一つあげて改めて問題を眺め回すと、意外と早く解決策が見つかることが多いということが分かるのです。たとえば、「国民国家の問題を世界の次元で眺め、文化の問題を文明の視角から観察する」といったことなどです。これが習性になれば、今までとは違った「物の見方・考え方」視点を手に入れたのに等しく、そうした視点を得るだけでも同書を一読する価値はあると思います。 石油に纏わるエネルギーに関する考察は今後も続きますが、今回久しぶりに20年前にカードに書き写した文章を目にして思ったことは、「もし、20年前に、『虚妄からの脱出』の第一章「石油開発の弁証法」を熟読玩味した政治家あるいは財界人が一人でもいたら、今日不況に喘ぐような日本にはなっていなかった、ということです。今さら気付いても手遅れでしょうが、せめて此処で『虚妄からの脱出』を読むことにより、「虚妄からの脱出法」として書かれている内容を悟った政治家なり財界人が、一人でもいいから出てこないものかと、密かに願う次第です。

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コメント

ブログを紹介していただき、誠に有り難うございました。今後とも宜しくお願い申し上げます。

貴ホームページが益々注目されることを祈念しつつ

サムライ拝

投稿: サムライ | 2005年9月20日 (火) 午前 07時49分

せいさく0319と申します。
掲載されている日記を興味深く拝見させていただきました。事後の御連絡となりましたが、当方の記事にリンクをはらせていただき、日記を紹介させていただきました。

リンクをはらせていただいた件について、何か差しさわりがございましたら、その旨、御連絡ください。何分、ブログ初心者なもので、ご容赦ください。

また、よろしければ、今後とも、そちらのサイトを拝見させていただくつもりです。よろしくお願いいたします。

せいさく0319 
サイト名 気になるブログ10件
mail:noguchi0319@mail.goo.ne.jp 
http://plaza.rakuten.co.jp/kininaruburogu10/

投稿: せいさく0319 | 2005年9月20日 (火) 午前 06時20分

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