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2005年6月16日 (木)

翻訳の仕事がしたい…

最近、私の後輩から以下のようなメールが届きました。

私の知り合いに翻訳業を目指している者がいますが話しを
聞いていると生業として自立できるのはほんの一握りで相
当シビアな世界だと言っていました。時々新聞等で翻訳業
を夢見ている人達の声が紹介されていたのを記憶していま
すがそれによると欧米の一流大学や大学院で留学経験のあ
る人でも仕事で常時、続けていくのはよほど実力がなけれ
ば難しいという内容でした。

1998年秋、私は当時発足したばかりの早期退職優遇制度を利用して、サラリーマン生活から足を洗い、独立開業の世界に飛び込みました。会社を辞めた当時は、「当面は翻訳でメシを食っていこう」とノンビリと構えていたものの、本当に自分は翻訳者になれるのか、翻訳者になったとしても、家族を養っていけるだけの収入を得られるのか…、と正直言って一抹の不安はありました。幸い、退職金を割増でもらっていましたので、最初の1年間は翻訳スクールに通い、翻訳技術を身につける余裕があったのは幸いでした。ただ、当時通った翻訳スクールの1年間コースを修了してから、5年が経った現在の時点で振り返ってみるに、翻訳スクールで身につけた翻訳技術は微々たるものでしたが、長年染みついたサラリーマンの垢を落とし、フリーランスとしてやっていく心構えを身につけることができたという点では、1年間という空白期間は無駄ではなかったと思います。それにしても、当時の自分を支えてくれた母および妻には、改めて感謝したい気持ちで一杯です。

さて、翻訳者になるのに必要なものは、海外あるいは国内の一流大学という学歴、900点以上のTOEICのスコア、英検1級の資格など…ではありません。世の中で一流とされる翻訳者には、高卒や短大卒の翻訳者がかなりいるという印象を受けます。高卒で超がつく一流翻訳者と言えば、何と言っても小舘光政氏でしょう。小舘氏本人は個人ホームページを持っていませんが(以前は持っていました)、以下のURLで小舘氏が紹介されています。ITや半導体関連の翻訳者を目指す人なら、小館氏のインタビュー記事は目を通しておくといいでしょう。
http://www.kato.gr.jp/lifestyle/lifestyle4.htm

短大卒で超のつく一流翻訳者は、水野麻子氏でしょう。特許翻訳者を目指すのであれば、水野氏のホームページは必見です。
http://www.monjunet.ne.jp/PT/

ともあれ、これで学歴と翻訳はあまり関係ないことがお分かりいただけると思います。

では、翻訳者になるのに必要なのは、英語関連の資格でしょうか? いいえ、TOEICの点数や英検1級の資格と翻訳力とは、あまり関係はありません。私は、TOEICを立ち上げた北岡靖男氏の国際コミュニケーションズで、営業の仕事をしていた一時期がありますので、TOEICの経緯についてはよく知っているつもりです。仕事中のある日、当時のTOEIC事務局長だった伊東顕氏が来て、「サムライ君、今度TOEICの調整インタビューがあるが、受けてくれないか」と言ってきたことがありました。調整インタビューとは、730点以上の点数を取ったTOEIC受験者で、希望する人だけが有償で受けられるインタビュー試験を実施する前に行う、「調整」インタビューのことを指します。つまり、インタビューを行うネイティブの間で、インタビュー採点評価の基準を統一(調整)するため、私がモルモットになったというわけです。ちなみに、その時私がもらった評価は「3+」であり、伊東氏に「サムライ君は、ネーティブに近い!」と誉められたのを覚えています。その後、伊東氏は国際ビジネスコミュニケーション協会理事長に就任されてことを風の便りで聞いていますが、今でもお元気にご活躍なのでしようか、一度再会してみたいような気がします。

話が脱線しましたが、6年間にわたり翻訳業界に身を置いた私が考える翻訳者の条件として、社会人としての一般常識を身につけていることを第一条件に取り上げたいと思います。これは何も難しいことではなく、仕事の提出期限を守るとか、請け負った仕事の内容を外部に決して漏らさないといった、当たり前のことを実行できる能力のことなのです。しかし、〆切を守ることが如何に大変か、実際に翻訳の仕事に携われば分かるようになるでしょう。

次に翻訳者に求められるのは、俗に言う、「英語力」、「日本語力」、「技術知識」「調査能力」の四要素ですが、上記の後輩に対して、私は以下のような内容のメールを認めています。(一部訂正)

愚生が翻訳者として飯が食えるようになったのは、○○さんのお陰であると
思っています。何故なら、私が毎週執筆していたメールマガジン[△△△△]
で色々と厳しく指導していただいたからです。お陰様で、日本語に関しては
その辺の翻訳者には決して負けないだけの自信があります。英語はFT(英
国の経済紙。The Financial Times)が読める程度でいいのですし、パソコン
もメールのやり取りやファイルの添付の仕方、検索の仕方が分かれば十分な
のです。勝負は母国語である日本語だと思います。何故なら、英日の方向で
翻訳する(英文和訳)のですから、キチンとした日本語が書けなければ話に
ならないというわけです。しかし、まともな日本語を書ける翻訳者は意外に
少ないのです。

逆に、愚生は日英の方向の仕事(和文英訳)も半分くらい翻訳会社などから
承っていますが、まだまだアメリカの高校生程度の英語しか書けません。

最後に、当たり前の話ですが、翻訳者は翻訳をやっているだけで良いというわけにはいきません。フリーランスというのは、仕事を獲得するための営業センスが必要であり、また、毎年の確定申告をまとめるための経理の知識も必要です。さらには、インターネットについて熟知し、パソコンを駆使できなければ話になりません。

ここで、営業センスについて、一つのエピソードを挟んでおきましょう。

あるカウンセリングの会社が、自社で使用するカウンセラー用マニュアルの英日翻訳が必要ということで、翻訳者を募集していたことがありました。私もちょうど一息ついたところでしたので応募したところ、数日後に幸い採用されたのですが、後にその会社の社長さん(仮に、A社長とします)が言うには、4名を募集のところ、70名以上もの応募者が殺到したと言っていました。その中から、優れた訳文を提出した翻訳者を10名ほどに絞り、さらにその中から4名を最終的にA社長が選んだということになります。では、10名の中から何を規準に4名を選んだのかというと、A社長は「ヒューマンスキルの有無」とはっきり言っていました。さらに、「今回の翻訳の仕事にかける意気込みなりポリシー、あるいは当社のカウンセリングの対象である□□□について思うことを一言書いてきた翻訳者を選んだ」とA社長は付け加えていました。換言すれば、私を含め、残り3名の翻訳者は、A社長の言葉を借りれば、「選ばれるコツを身につけていた」から選ばれるべくして選ばれたということらしいです。このように、ちょっとだけ気転を利かせることが、翻訳の仕事を獲得するコツだと言えそうです。これがA社長の言う「ヒューマンスキル」、私の言う「営業センス」なのです。

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